当院の研修委員会で、過去5年間に問題となった初期研修医の分析

伊賀幹二、西和田誠、今中孝信

天理よろづ相談所病院 総合診療教育部

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キーワード;卒後臨床研修、態度教育、評価

抄録

当院において過去5年間に初期研修2年間を終了した55名の研修医のうち、研修委員会でそのパーフォーマンスが問題となった9名について問題点を分析した。医学知識のみが不十分であった研修医を教育・指導することは可能であったが、責任感に乏しくコミュニケーション技法が拙劣な研修医を効果的に指導することは困難であった。

Analysis on medical trainees with inappropriate performance during the first two-year post-graduate medical education

Kanji Iga, Makoto Nishiwada, Takanobu Imanaka

Department of comprehensive medical care and education

Key word: post-graduate medical education, attitude, evaluation

Among the 55 medical residents who had completed the 2-year postgraduate medical training course at Tenri Hospital in the past 5 years, the postgraduate medical education committee analysed 9 residents whose clinical performance was considered inappropriate. The committee, composed of eight conductors pointed out that these trainees with poor medical knowledge at the beginning were able to improve their medical performance and skills in the two-year training; however, that the other trainees with lack of responsibility towards patients, communication skills and medical ethics during the medical training were very difficult to improve or alter their attitude or performance in the two years.

 

当院における初期研修2年間の一般目標は、患者中心の診療を通じて全人的医療の基礎を身につけることである。我々は、各研修医を形成的に評価し彼らの要望を病院側に伝える役割として、研修医の教育に直接、又は密接に関係している指導医8名からなる研修委員会を設置し、月に一度開催している(1)。当院において過去5年間に初期研修2年間を終了した55名の研修医のうち、この委員会でパーフォーマンスが問題となった9名の問題点を分析し、矯正が可能であったかどうかを評価した。

問題点を表1に、事例を表2に示す。乏しい医学知識以外はすべてが態度領域の問題であった。事例1の問題点は、多量の造影剤の使用は腎不全を悪化させることおよび、血圧上昇は動脈瘤の破裂の誘因であるという医学判断力の欠如、主治医としての責任感のなさであり、事例2では、プライドが高く他人と相談出来ないことが問題とされた。

指導方法

不十分な医学知識のみが問題となった3名(研修医No1,5,6)のうち2名は、受け持ち患者数を少なくし、余裕をもって研修させる等の特別カリキュラムを設定することにより、ゆっくりではあるが医学判断力が向上し、研修終了時には医師としてやっていけると評価された。患者・家族とのコミュニケーションが拙く、かつ医学判断力が乏しいと研修開始1年後に評価された2名(研修医No3,8)に対して、本院において研修医が患者を最初に診る唯一の機会である救急外来勤務を一時的にはずして反省を促し、かつ内科系の後期研修医とマンツーマン救急外来勤務を2カ月間させた。しかし、指導した後期研修医からの評価は低く、その後の1年間で行動が変化したとは評価されなかった。その他、総合診療教育部スタッフにより適宜、面接による指導等が行われたが、行動が改善されたという印象はなかった。

引き続き後期研修を受けた研修医に対する評価

病院側は、1994年度の初期研修医に対しては研修委員会の評価が低くとも、本人が希望し、かつ受け入れ科の了解があれば3年間の後期研修も許可した。初期研修2年間の評価が低かった3名の研修医が、その後の本院での後期研修を行い、3年後に専攻科から評価を受けた。

呼吸器内科を専攻した研修医(No4)に対しては、評価者が5名であり、初期研修時代と同じく責任感がないということでは全員が一致した評価であった。4名が知識面ではあまり進歩がなかったとしたが、1名は水準に達したと評価した。

小児科を専攻した研修医(No2)の評価者は5名であり、技術が向上したため、2年目より評価は上昇したが、家族や医療スタッフとのコミュニケーションには評価者全員が問題ありとした。しかし、3年間の後期研修終了時には、総合評価は水準以上とされた。後期研修の1年目では、コミュニケーションが不十分であったため評価が低かったが、その当時から責任感はあり仕事に対しては投げやりではなかったことがよかったと評価された。

臨床病理部を専攻した研修医(No3)に対しては評価者が1名であったが、一つのこと(細菌学)に集中させることで、他の分野に対しても落ち着いて研修することができるようになったと評価された。しかし、3年間の研修後でも、技師等とのコミュニケーションや責任感にやや問題があり、当初の希望である臨床医学を行うことは無理と判断された。

考察

医師になるためには、医学部入学選抜試験と卒後の医師国家試験を合格しなければならないが、これらはともに知識を問う試験である。大学によっては、面接や小論文を積極的に取り入れ、それにより医師としての適性がある人間を入学させようとしているが、客観的判断が困難であることが問題である(2)

今回、我々が行った卒後2年間の評価に限れば、医学知識が乏しくとも、責任感がある研修医は、研修医側および指導医側の努力で医師としての必要な医学判断力をつけることは可能であった。また、この際、余裕をもって研修できるために自分の得意な分野を何か一つ早く持たせることも自信をつけさせるひとつの方法と考えられた。

本院に採用された初期研修医は、大学を離れてよりよい初期研修を求めて採用試験を受けているので、卒後研修に対するモチベーションは高いはずである。しかし、本院に採用された初期研修医55名中9名(15%)が何らかの問題をもっていたと判断されたことは、本院の卒後臨床研修自体の内容についても検討する必要がある。臨床の場面場面で迅速な医学判断ができない理由の一つとして、雑用等のため忙しすぎて自己学習する余裕がないということもあげられる。本院では、研修医が「受けもち医師」として患者をケアする総合病棟が存在し、臓器別診療ではない全人的医療を目指しているが、高度先進医療の指定病院でもあるため初期研修に適した症例が選ばれていない可能性もある。プライマリケアを目標とすべき研修医が、専門医がみるべき症例の主治医になれば、かなり専門的知識を指導医より要求される。そのような症例を受け持ち、生じた諸問題を自分で調べることにより問題解決能力を持つようになる可能性もあるが、習得すべきことが増大した現在、将来に必要でないことまで研修する必要はないような気もする。

現行の大学入学選抜および医師国家試験ではコミュニケーションに問題のある者は不合格とすることができない。今回、我々が行った過去5年間の卒後教育の評価から、患者、医療スタッフとのコミュニケーションに問題のある研修医は、25才をすぎての研修により改善することは困難であった。しかし、責任感があれば、ある程度のレベルには達し得ると考えられた。一方、責任感がなく受け持ち患者に対してなんとかしたいという気持ちのない研修医は、5年たってもはなかなか修正することができなかった。従来の講義形式とは異なる卒前教育として、少人数グループ教育を行うことや学生をチーム医療の一員に組み込むことにより患者に対して責任感を持てるようになることが期待される。さらにいえば、本来有すべき人間観として目の前の患者に対して何かをしてあげたいと思う気持ちを持っていることが必須であると考えられる。

本論文は第31回医学教育学会(東京)で発表した。

謝辞 

研修医の評価をしていただいた関連診療科の諸先生方に感謝します。

文献

1。今中隆信。卒後臨床研修の評価-実践にもとづく評価方法について-医学教育27;185-189,1996

2。尾島昭次、橋本信也、桜井勇。入学者選抜

医学教育学白書 篠原出版、199015-37

 

 

表1:

表2:

事例(1)

受け持ち担当症例は腹部大動脈瘤を有する79歳の男性で、中等度の腎機能障害のため経動脈的大動脈造影をするようにと指導医に指示されていたにもかかわらず、多量の造影剤を必要とする経静脈的大動脈造影検査を依頼した。検査時に、カテーテルの挿入が困難なため血圧が上昇してきたが、患者に声もかけずに、操作室外で何もしないでみていた。報告を受けた指導医が「経動脈的大動脈造影を指示したのではないか」というと、手帳をみて「間違っていました」と反省なく返事をした。

事例(2)

治療した症例は、救急外来へめまい、下血を主訴として来院した43歳の男性。初診のレジデントがルーチンの胸部レ線を必要と考え、レントゲン室へ行くよう指示したが、立位になるとめまいを訴えた。そのため、看護婦が上級医を呼ぼうとすると、このレジデントが怒りだした。